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真夏の暑い日に飲みたいものといえば、麦茶。日本人にとって麦茶は昔から夏の風物詩であり、水分やミネラルの補給に欠かせないものだった。そんな麦茶は現在、ペットボトル入りのものがスーパーマーケットやコンビニエンスストアで多く売られている。これまでは7月〜9月が売り上げのピークだったが、現在では1年を通して飲まれるようになってきている。
麦茶の市場は年々成長中で、2023年には1400億円にまで拡大。大手飲料メーカーがさまざまなブランドで麦茶を展開するなか、市場を牽引してきた株式会社伊藤園(以下、伊藤園)の「健康ミネラルむぎ茶」が2023年に累計販売本数130億本を突破。麦茶飲料市場は年々拡大を続けている。
今回は伊藤園のマーケティング本部 麦茶・紅茶・健康茶ブランドグループ ブランドマネジャーの黒岡雅康さんに、麦茶の市販をはじめた理由や躍進する麦茶飲料市場のイマ、そしてお値段据え置きで量を増やした“ステルス値下げ”を実施した理由について話を聞いた。
「健康ミネラルむぎ茶」は、やかんで煮出したような昔ながらの甘香ばしさを感じる後味がすっきりとした味わいとミネラルを補給できる飲料。また、カフェインゼロ・カロリーゼロに加えて、「乳児用規格適用食品」と同等の管理をしているため、赤ちゃんからお年寄りまで幅広い年齢層に支持されている。
「健康ミネラルむぎ茶」のもととなる商品が発売されたのは1988年のこと。当初は「缶入りむぎ茶」という名称で発売され、そのあとには伊藤園の「お〜いお茶」ブランドのラインナップとして販売するために「お〜いお茶 むぎ茶」という名称に変更。現在の名前で発売されるようになったのは2012年のことだった。
「弊社は缶入りのウーロン茶や緑茶の開発・発売を進め、その流れで『家庭で飲まれているものを外でも手軽に飲んでほしい』という思いから缶入り麦茶を発売しました。また、麦茶は夏の暑さ対策としても飲まれていたので、ミネラルを加えて体内に吸収しやすくしました。その部分を強調する意味も含め『健康ミネラルむぎ茶』という名前になりました」
高度経済成長期に「これからは無糖の時代がくる」と予測し、缶入りのウーロン茶や緑茶の発売を開始し、その流れを汲んで麦茶を発売した伊藤園。展開より36年が経過した現在、その人気は年を重ねるごとに大きくなり、麦茶飲料市場を代表する存在になった。
「なお、CMでは元気に体を動かして汗をかいたときに、ゴクゴクと麦茶を飲んでほしいという想いを込めています。また、1999年から笑福亭鶴瓶さんに出演いただき、今年で25周年を迎えます。『健康ミネラルむぎ茶』は鶴瓶さんに育てていただいたと言っても過言ではありません」
1988年の登場当初は缶だった麦茶だが、ペットボトルでは1992年に「お~いむぎ茶」(2リットル)として発売された。パーソナルサイズとしては1996年の「お〜いお茶 むぎ茶」(500ミリリットル)が最初の発売だったが、2012年の「健康ミネラルむぎ茶」へのブランド変更で600ミリリットルに変更された。
その後、実はじわじわとお値段据え置きで容量を増やすという、いわゆる「ステルス値下げ」を行っていたことをご存じだろうか。物価や原料価格が年々上昇するなか、伊藤園は値段を変えずに人知れず麦茶の増量を図っていたという。
「麦茶は緑茶やコーヒーとは異なり、一気にゴクゴクと飲まれることが多い飲料です。特に、夏の暑い日はキンキンに冷えた麦茶をたくさん飲むのがおいしいですよね。過去に、開封したあとに一度にどれくらいの量が飲まれるのかを調査したところ、150〜200ミリリットルという結果が出ました。そこで『500ミリリットルだと少ないな』ということになり、ゴクゴクとたくさん飲んでもらいたいという理由から、2012年に600ミリリットルで発売しました」
そこからさらに調査を続け、「600ミリリットルでは物足りない」という消費者の声を受けて、スーパー向けのものは650ミリリットル、コンビニ向けのものは670ミリリットルに変更した。また、自動販売機のものは600ミリリットルと据え置きの状態。自動販売機では600ミリリットルのペットボトルが扱える大きさの限界だったそうだ。
「また、スーパーとコンビニで大きさが違うのは、顧客層の違いを意識しているためです。スーパーでは箱単位で買う人が多く、増やしすぎると持ち運ぶのが不便になるので650ミリリットルのサイズになっています。コンビニは男性のお客様が比較的多く、一回に飲む量も多いために670ミリリットルにしています」
なお、最近よく売れているサイズは1リットルタイプだという。家族と住んでいる人が個別に飲むために購入して冷蔵庫に入れる人や、670ミリリットルサイズ以上に飲みたいという人に人気なのだとか。また、フェスやゴルフなどの野外活動をする人に評判なのが「冷凍兼用ボトル」だ。こちらは首に当てたり手で揉んだりすることで、飲む以外での暑さ対策に役立つのが人気の理由だ。
ひと昔前は家のやかんで作っていた麦茶だが、今やペットボトルで飲むことが当たり前に。そんな麦茶飲料市場は年々拡大しており、伊藤園の調査ではこの10年間で約2.7倍に成長しているという。日本を代表する大手飲料メーカーもこぞって麦茶飲料を展開しており、今最も成長が期待される分野になっている。
「麦茶はこれまで夏場に一気に売れていて、それ以外の季節は落ち着いていたのですが、近年は春や秋、冬の売り上げも伸長しています。そのなかでも弊社の「健康ミネラルむぎ茶」は2023年に『最も販売されているRTD麦茶ブランド』実績世界No.1としてギネス世界記録に登録されました。まさに、市場をリードしてきたと言っても過言ではないと思います」
麦茶飲料市場の成長要因として黒岡さんが挙げているのは2つ。そのひとつは2011年に発生した東日本大震災だ。東北や関東では電力節約のために輪番停電が行われ、その年の夏は思うようにクーラーが使用できない状態に。そこで、暑さ対策としてミネラルが補給でき、ノンカフェインで年齢問わず飲むことのできる麦茶が注目されるようになったという。ちなみに、このときは家族で分けられるいざという時の備蓄として2リットルタイプが人気だったとか。
そして、震災後も地球温暖化による気温の上昇が続いたことで、夏場の水分補給が課題に。2018年には気象庁が記者会見で「災害級の暑さ」と発言したほどに夏の気温が危険視されるようになった。国民の熱中症への意識が高まるなか、屋外での暑さ対策や水分補給として持ち運びしやすい600ミリリットルタイプのものが売れるようになった。
「弊社は緑茶やウーロン茶など、さまざまなお茶市場に参入していますが、麦茶市場は調子がいい市場のひとつです。やはり、温暖化によって年中暑くなってきたことがニーズを生み出していると思います。そして夏だけでなく、1年中売れ続けていることも大きな変化ですね。『夏の飲み物』として捉えられがちだった麦茶のイメージの変化を感じます」
ここ10年で圧倒的な成長を見せた麦茶飲料市場は、地球温暖化による購入機会の増加や数々のメーカーの参入などで、さらに成長・拡大を遂げる兆しを見せている。黒岡さんは麦茶飲料市場の未来について「4600億円の緑茶飲料市場に比べてまだまだ小さいため、さらなる成長が見込まれる」と話す。
「緑茶と麦茶って、おそらく家庭ではティーバッグやリーフで同じくらい飲まれているはずなんです。そう考えると麦茶はまだまだ伸びる可能性があると思います。カフェインゼロで日常的な水分・ミネラル補給ができるので、さまざまなお客様や幅広いニーズに対応できるのが麦茶の利点だと思うので、今後もさらに拡大していくと思いますね」
最後に、黒岡さんに今後の「健康ミネラルむぎ茶」と伊藤園の展望について聞いた。
「市場が大きくなればなるほど嗜好の多様化が進み、人それぞれの麦茶の好みが現れると思います。今はやかんで煮出した昔ながらの麦茶が定番ですが、これだけではない麦茶の飲まれ方や楽しみ方が広がるのではないでしょうか。今後は時代の変化に合わせ、お客様に楽しんでもらえるような麦茶のレパートリーや新商品を展開していきたいです」
年々夏の気温が上がり熱中症の危険性が懸念されるなか、夏の風物詩から暑さ対策の飲み物へと進化を遂げた麦茶。各社が新商品やブランドを発売し、さらなるおいしさや楽しみ方を提供してくれるだろう。これからの新しい麦茶のカタチに注目したい。
取材・文=越前与
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