
東京都
「まるでジブリの世界に迷い込んだみたい」。そんな声があちこちから聞こえてきそうな展覧会が、東京・天王洲の寺田倉庫B&C HALL/E HALLで開催中だ。
「ジブリの立体造型物展」では、あの名作たちの“あのシーン”が、立体になって目の前に現れる。写真で見るだけでは伝わらない、圧倒的な存在感と没入感。ふかふかのお腹に飛び乗って、うれしそうに体を預けるメイの姿からは、トトロのあたたかさまで伝わってくる。空を飛ぶハウルの城に、あの油屋の奥の奥まで。スクリーンの中にいたキャラクターたちが、目の前に現れた瞬間、思わず「あっ!」「すごい…」と声に出してしまいそうになる。
展示の導入では、『猫の恩返し』のバロンが優雅にお出迎え。そこから、『となりのトトロ』でメイがトトロを追って走り抜けた「追っかけトンネル」をくぐり抜けて、いよいよ立体造型の世界へ。
展示されているのは、『となりのトトロ』『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『魔女の宅急便』『コクリコ坂から』『君たちはどう生きるか』など、ジブリの代表作の名場面を表現した立体造型の数々。スクリーンで観たシーンが、まるで飛び出してきたかのようにそこにある。写真撮影もOKなので、お気に入りの角度から思い出を残せるのもうれしいポイント。
立体だからこそ、見る角度によって表情や奥行きがガラリと変わるのもおもしろいところ。ぐるりと回って見たり、しゃがんでのぞき込んだり、角度を変えるたびに「こんな表情してたんだ」と新たな発見がある。あの空気感、あの空の色、あの世界観を、しっかり、じっくり堪能できる空間だ。
2025年5月27日に行われたオープニングセレモニーでは、特撮界の名匠・伊原弘さんと俳優の小泉孝太郎さんが登壇。制作の舞台裏やジブリ作品への思いを語り、会場はじんわりと温かな空気に包まれた。
伊原さんは「今まで全くやったことのない大きさと形で、本当に多くの方の力を借りてようやく完成した。とても感慨深い」と語り、さらに「木製モノコックというテーマで、100年前の技法を調べて挑戦した。昔の人ができたなら自分たちもやらねばと、覚悟をもって取り組んだ」と、試行錯誤の日々を振り返った。また、完成したサボイアS-21を宮﨑駿監督に見てもらった際、「小さな声で“美しいですね”と言ってもらえた。自分がトライしてきたことに間違いはなかったと思いました」と、胸を熱くする一幕も。
小泉孝太郎さんも、番組ロケで伊原さんの工房を訪れたことに触れ、「設計図が頭の中にしかないという事実に驚いた。スタッフ全員が伊原さんのイメージを読み取りながら作業する光景は、まさに神業だった」と絶賛。「操縦席にポルコが乗っているように感じるほどリアルで、美しい赤色と曲線美に見惚れた」と、その仕上がりに感動していた。
「もうちょっとここにいたいな、もうちょっとこの角度から眺めたいな。もうちょっと時間が欲しかったですね」と、名残惜しそうに語り、「もう一度行きたいですよね。じっくりと味わいたいです」と想いを口にした。
さらに展覧会全体について、小泉さんは「ジブリファンの方っていうのは、日本中だけではなく、世界中にたくさんいると思います。立体造型物の神様・伊原さんのファンの方も多いはずです。そんな皆さんが会場に足を運んで、1つの作品の前で時間を忘れて見入ってしまう、僕もそうでした。そういう時間って、とても贅沢。お子さん連れの方でも、お父さんお母さんの方が夢中になってしまうかもしれません」と語り、家族みんなで楽しめる展覧会の魅力を語っていた。
そんなサボイアS-21が登場するのは、クライマックスの“ピッコロ社”。『紅の豚』に登場する飛行艇サボイアS-21が、伊原さん率いるチームの手によって、木製のアート作品として表現されている。木製とは思えないどっしりとした重量感。まるでポルコが今にも乗り込んできそうな仕上がりに、胸がじんわり熱くなる。
そのピッコロ社には、まだまだ見どころが詰まっている。たとえば、図面の前に座りながらふうっと背伸びをする設計技師・フィオの姿。何か語りかけてくるようなリアリティに、思わず「おおっ」と声が漏れる。さらに注目は、ピッコロ社のテーブルを彩るトマトソースのパスタのフォトスポット。フォークを握れば、まるで劇中のあの場面に飛び込んだかのようなカットが撮影できる。もくもくと湯気が立ちのぼりそうな、リアルな出来栄えにもびっくり。
そして、ひとつ注目したいのが、「海を渡った熱風」セクション。この“熱風”とは、サハラ砂漠を吹き抜ける乾いた風のこと。スタジオジブリの名前の由来にもなったこの風が、時を経て“海を渡り”、世界中に作品を届けていった軌跡をたどる展示だ。
『君たちはどう生きるか』の世界的ヒットで、ジブリ作品は今や国境を越え、世界中の人々に愛される存在となった。しかしそこにいたるまでには、言語や文化の壁、配給制度など、さまざまな障害が立ちはだかっていた。それでもなお、ジブリの魅力を信じ、作品を世界へ届けようと動いた人たちがいた。たとえば、韓国の配給会社「大元メディア」のジョン・ウック会長。1980年代、日本映画の公開に厳しい制限があった中で、ジブリ作品の配給権を獲得し、韓国での公開に尽力した。国や制度をこえて作品を届けようとするその姿勢に、強い情熱がにじむ。
スタジオジブリ代表取締役社長・福田博之さんは、「ジブリ作品が世界中で受け入れられているのは、そうした方々の努力の積み重ねによるもの」と語る。風のように、人から人へと思いが受け継がれていった歩み。その熱さと確かさを、この展示で感じてほしい。
さらに、今回だけの特別体験も。宮﨑駿監督が三鷹の森ジブリ美術館のために制作した短編アニメーション『空想の空とぶ機械達』が、ここで特別上映される。ナレーションも宮﨑監督自身が担当。シュルシュル、バサバサと飛び立つ“空想の機械たち”が、小さな6分間の映像の中にぎゅっと詰め込まれていて、自然と引き込まれてしまう。
「ただ観るだけじゃものたりない」「もっとあの世界に入り込みたい」そんな人にぴったりの展覧会。立体造型ならではの“あの空気”が、ぐっと胸に迫ってくる。展示は一部を除き写真撮影OK。好きな角度から眺めたり、思い出を写真に残したり、自分だけの“推しシーン”をじっくり堪能してみよう。
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取材・文・撮影 = 北村康行
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