海に棲むスナメリが河川に?調査で見えた、全国の目撃例の半数が名古屋に集中している理由

愛知県

国内のいくつかの水族館でも見られ、その愛らしい姿で人気のスナメリ。日本各地の海にも広く生息している生き物で、場所によっては野生のスナメリを見ることもできる。

そんなスナメリだが、国内でも特に名古屋市で多く見られることをご存知だろうか?今回は名古屋市周辺で見られるスナメリについて、長年研究・保護を行ってきた名古屋港水族館の飼育員に、その実態と調査報告について話を聞いた。

スナメリは日本周辺に住むクジラ類の中で最も小さい
スナメリは日本周辺に住むクジラ類の中で最も小さい※写真はイメージ。名古屋港水族館では飼育されていません


スナメリってどんな生き物?

まずはスナメリがどんな生き物なのか、特徴から紹介しよう。スナメリは体長2メートルにも満たない小型のクジラ類。イルカやシャチとは違って背ビレやくちばしがなく、頭は丸く、灰色でツルッとした姿が特徴のひとつだ。

名古屋港で泳いでいるスナメリの姿
名古屋港で泳いでいるスナメリの姿(C)名古屋港水族館


スナメリはアジア地域に多く生息しており、日本では仙台湾や伊勢湾、瀬戸内地域、西九州など、水深50メートルより浅い海域で多く見られる。

長年のスナメリ調査結果を報告

今回話を聞かせてくれたのは、名古屋港水族館の飼育員・神田幸司さん。「名古屋港スナメリプロジェクト」と題して、名古屋市周辺のスナメリについて長年調査・研究してきたメンバーのひとりだ。

「調査を始めたキッカケは、名古屋港でスナメリを見たという目撃情報がときどき寄せられるようになったことでした。伊勢湾に推定約3000~4000頭のスナメリが生息していることはもともと知られていたのですが、いつ、どれくらいの数が名古屋港にやって来るのかは謎だったんです」(神田さん、以下発言部分はすべて)

名古屋港水族館の飼育員で「名古屋港スナメリプロジェクト」の一員でもある神田さん
名古屋港水族館の飼育員で「名古屋港スナメリプロジェクト」の一員でもある神田さんphoto by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA


「名古屋港スナメリプロジェクト」では、東海大学の吉田助教や京都大学の木村准教授らと共同でスナメリについて研究。目視のほか、特殊な装置を用いてスナメリの声(超音波)を記録し、スナメリの生息状況を調査している。

目視調査と同時に、特殊な装置を使用してスナメリの声も記録
目視調査と同時に、特殊な装置を使用してスナメリの声も記録(C)名古屋港水族館


そして2024年3月、神田さんたちはこれまでの調査報告書を、「なごや生物多様性センター」が発行する「なごやの生物多様性 第11巻」に掲載した。

「毎年冬から春にかけて、名古屋港にはおよそ100~200頭のスナメリが来ていることがわかりました。実は冬場の名古屋港の海水温はほかと比べて少し温かいんですよ。温かいからエサとなる魚が多く、それを求めて名古屋港へやって来ているのかなと。もしかしたら、その温かさもスナメリにとって心地いいのかもしれません。とにかく毎年冬になるとスナメリが大量に名古屋港へやって来るんです」

「名古屋港ポートビル」から目視でスナメリを調査している様子
「名古屋港ポートビル」から目視でスナメリを調査している様子(C)名古屋港水族館


調査の結果、約3000~4000頭がいる伊勢湾より、冬から春にかけてたくさんのスナメリが名古屋港へやって来ることがわかった。その数は100~200頭くらいの規模ではないかと考えているそうだ。そして、それらはおそらくエサを求めて名古屋港へ来ているのだとか。しかしながら、やって来るスナメリが毎年同じ個体なのか、夏場はどうしているのかはまだ解明されていない。

「名古屋港でスナメリ観察会」の調査報告が館内に掲示されている
「名古屋港でスナメリ観察会」の調査報告が館内に掲示されているphoto by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA


スナメリは川に現れることもある!

名古屋市内でのスナメリ目撃情報は名古屋港だけに留まらない。2010年2月~2023年3月の間に、名古屋市内の河川で9頭のスナメリが目撃されている。これは全国の河川でスナメリが見つかった例の実に半数以上を占めているというのだ。

また、名古屋市内でスナメリが目撃された河川は、すべて名古屋港と繋がっているものだった。

「川に迷い込んだスナメリも調査しています。川に入ってしまう理由としては、スナメリは淡水にも適応できるので、エサとなる魚などを追いかけて、知らないうちに川へ入ってしまっているのかなと」

河川へ迷い込んだスナメリを保護する名古屋港水族館のスタッフ
河川へ迷い込んだスナメリを保護する名古屋港水族館のスタッフ(C)名古屋港水族館


名古屋市内でスナメリが見られた河川は、「堀川(ほりかわ)」「新川(しんかわ)」など。スナメリが川へ入ってしまう理由として、これらの川の勾配が緩いことが考えられるという。ちなみに、堰(せき)があるような河川では、そもそもスナメリが遡上できないので見つかっていない。そして、川にいるスナメリはすべて、「感潮域(かんちょういき)」という潮の干満の影響を受けるエリアで発見されている。名古屋市のある濃尾平野は広大で川の勾配も緩く、ボラなどの魚も多いことから、エサを求めて侵入したと推測できるそうだ。

名古屋港水族館ではスナメリの生態展示をしていないが、スナメリの生態について解説するコーナーを設けている
名古屋港水族館ではスナメリの生態展示をしていないが、スナメリの生態について解説するコーナーを設けているphoto by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA


スナメリを名古屋の冬の風物詩に

毎年12月~4月ごろ、名古屋港には多くのスナメリがやって来ることがわかった。そして名古屋港水族館では、このスナメリたちを観察する「名古屋港でスナメリ観察会」イベントを実施している。また館内には、スナメリの生態や「名古屋港スナメリプロジェクト」の調査結果を展示・解説するエリアもある。

名古屋港水族館にあるスナメリについての展示・解説
名古屋港水族館にあるスナメリについての展示・解説photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA


「名古屋港で野生のスナメリが見られることを、もっと多くの人に知ってほしくてこの活動をしています。毎年冬になったら地元のニュースで“今年もスナメリが現れました”なんて放送されるように、スナメリが冬の風物詩になってくれるといいですね」

約13年の活動をまとめ、今回調査結果を報告した名古屋港水族館。まだ明らかになっていないことも多いので、今後の調査報告も楽しみだ。また、冬になったら海や川でスナメリを探してみるのもおもしろいかもしれない。


取材・文=民田瑞歩/撮影=古川寛二

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詳細情報

●名古屋港水族館
住所:愛知県名古屋市港区港町1-3
電話:052-654-7080
時間:9:30~17:30、2024年7月20日(土)~9月1日(日)は9:30~20:00
休み:月曜(祝日の場合翌平日)、7月〜9月はなし
料金:入館料 大人2030円ほか ※2024年7月20日(土)~9月1日(日)は17:00以降 大人1620円ほか
駐車場:1200台(100円/30分、以降24時間ごとに1000円)
URL:https://nagoyaaqua.jp/

●動物取扱業登録
氏名又は名称:公益財団法人 名古屋みなと振興財団
事業所の名称:名古屋港水族館
事業所の所在地:名古屋市港区港町1番3号
動物取扱業の種別:展示
登録番号:第0611025号
登録年月日:平成18年9月19日
有効期間の末日:令和8年9月18日
動物取扱責任者:阿久根 雄一郎
情報は2024年7月5日 17:00時点のものです。

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