
大阪府
日本の物流を支える「海運」。そのしくみや仕事、そして船の魅力を、子どもから大人まで楽しみながら体験できる場所が大阪に誕生した。その名も「商船三井ミュージアム ふねしる」。2025年7月19日、商船三井が手がける体験型ミュージアムとして、アジア太平洋トレードセンター(ATC)にオープンしたばかりの新スポットだ。館名の「ふねしる」は、「船」と「知る」を掛け合わせたネーミング。展示を見るだけでなく、操縦や荷役体験、インタラクティブな演出を通じて、まさに“船を知る”体験がギュッと詰まっている。
7月18日、グランドオープン前日に開催されたオープニングレセプションには、地元関係者や報道陣など多くの来場者が集まり、会場はあたたかな期待感に包まれていた。商船三井 常務執行役員 ウェルビーイングライフ事業本部長 向井恒道さんは、「創業141年で初のミュージアム運営。大阪がその舞台になったのはとても感慨深い」と、地域とのつながりや次世代への期待を語った。
続いて登壇した館長の上田和季さんは、「体験型の海運ミュージアムをつくりたい」という想いから、社内の新規事業提案制度に応募したエピソードを披露。元・京都鉄道博物館の職員という経歴をもつ上田さんが、全国のミュージアムを視察しながら構想を練った渾身の施設だという。その実現には、展示業者との綿密な打ち合わせや、自らの現場経験が活かされていると語った。
さらに来賓として、大阪市住之江区の藤井秀明区長が登壇。「フェリーでつながる街同士の交流が生まれている今、ふねしるの存在が地域と海を結ぶ大切なハブになることを期待している」と語り、海のまち・住之江の魅力を再認識する場としての役割に期待を寄せた。
続いて、アジア太平洋トレードセンター株式会社の木村繁社長は、「ATCにとっても多くの子どもたちを迎えるふねしるは親和性が高い施設。カフェから眺めるさんふらわあの姿とともに、港の賑わいを感じてもらえたら」と語り、施設との連携にも意欲を示していた。
テープカットのあとには関係者向けの内覧会が行われた。展示の多くが体験型となっており、実際に手を動かしながら海運の仕組みや船の役割を楽しく学べる内容になっていた。シミュレーターや映像コンテンツを一足早く体験しながら、注目のポイントをじっくりチェック。ここからは、そんな見どころを一挙に紹介していく。
館内は「海運を知る」「仕事を知る」「商船三井グループを知る」という3つのゾーンで構成されている。「海運を知る」では、幅30メートル・高さ7メートルの大パノラマシアターが圧巻。世界で活躍する船や、さまざまな貨物の輸送の仕組みをダイナミックに紹介。ボタンを押してモノの流れをたどる展示や、自分で描いた船が動き出すデジタルアートもあり、誰でも楽しみながら理解を深められる工夫が随所にちりばめられている。
「仕事を知る」では、操船やガントリークレーン操作のシミュレータ、機関士や船員の仕事を解説した展示などが並ぶ。操船シミュレータでは、実際の船の視界を再現した映像の中で、舵を切る体験ができ、船の操作の仕組みを身体で感じ取れる内容になっている。浮力を体験できる実験コーナーでは、模型の船がコンテナを積むごとに沈んでいく様子に「おおっ」と歓声があがっていた。
「商船三井グループを知る」ゾーンでは、未来の船の模型や、環境に配慮した技術紹介、企業の歴史や数字にフォーカスした展示がずらり。フォトスポットでは、乗組員が実際に着用している制服を身に着けて撮影できるコーナーもあり、思い出づくりにぴったりだ。
「ふねしる」の目玉が、310度のLEDスクリーンに囲まれた巨大操船シミュレータ。波のうねりや船体の揺れ、大阪港の天候や時間帯によって変化する景色が映し出され、視界いっぱいに広がる映像の中で、舵を取りながら船を進めていく臨場感あふれる体験ができる。フェリーやコンテナ船などから好きな船を選んで出航し、障害物を避けつつゴールを目指す仕組みで、操作する手ごたえも本格的。まるで船長になったような気分で、迫力ある操船体験が楽しめる。
約5分間の操縦体験がワンコインで楽しめ、ファミリーでも、カップルでも一緒に操船できるのも魅力。圧倒的な没入感と爽快感が味わえる、人気必至のコンテンツだ。
「浮かぶって、どういうこと?」という問いには、水槽を使った“船と浮力”の体験でアプローチ。実際にコンテナを積み、船がどんなバランスで水に浮いているのかを試せる。見て、触れて、試して…その一連の動作のなかに、学びの要素がぎゅっと詰まっている。
さらに、ガントリークレーンのシミュレータでは、港での荷揚げ作業をゲーム感覚で体験可能。職業体験コーナーでは、航海士や機関士といった“海の仕事”にスポットを当てた展示もあり、将来の夢の入口にもなりそうな予感。
断面図で船の構造を視覚的に知ることができるコーナーや、「モノからたどる船」の展示では、ボタンを押すと輸送ルートが映し出される仕掛けも。思わず「へぇ〜」と声がもれるほど、知らなかった船の世界が次々と明らかになる。
館内に入ってまず目を奪われるのが、横幅30メートル・高さ7メートルの巨大パノラマシアター。スクリーンに映し出されるのは、世界各地を行き交う巨大な船たち。巨大なコンテナ船やタンカー、客船などが次々と現れ、港に積み降ろしされる様子や海上を進む姿がダイナミックに描かれる。そのスケール感と臨場感に、思わず息をのんでしまう。
さらに見逃せないのが、商船三井が運航する900隻以上の船の現在地をリアルタイムで表示するライブマップ。画面上の点がゆっくりと動き、日本から世界、世界から日本へと船が移動していく様子が一目でわかる仕掛けだ。港の名前や船の種類を確認しながら眺めていると、あっという間に時間が過ぎてしまう。まるで地球規模の物流の一部を、旅するような感覚で体験できる。
「ふねしる」は、家族で訪れるのにもぴったりな施設。未就学児は入館無料、小中学生400円(休日450円)、高校生800円(休日900円)と、お財布にやさしい価格でたっぷり楽しめるのがうれしい。そして、夏休み期間中(7月21日〜8月31日)は休館日なしで毎日オープン。屋内施設のため、暑さや雨を気にせず過ごせるのも安心ポイント。駅直結でベビーカーの移動もスムーズだから、小さな子ども連れでも気軽に訪れられる。
「海運を知る」ゾーンの『船をえがこう!』コーナーでは、タッチパネルを使って自分だけの船を描くことができ、完成した絵が壁面に映し出されると、その場でスーッと動き出す。作品が展示空間の一部になったような演出に、大人も思わず見入ってしまう。さらに、その船の絵はTシャツやトートバッグにプリントして持ち帰ることも可能。どちらも世界にひとつだけの記念品に仕上がる。体験したことがそのまま形に残るこのサービスは、夏の自由研究やおみやげにもぴったりだ。
館内のカフェは、“海を渡って運ばれた食べ物”をテーマにしたメニューがそろい、ミュージアムの余韻にひたりながらひと息つける空間だ。
人気の「ふねしるビーフカレー」は、“旅する7種のフルーツカレー”と題され、原材料に海外のフルーツを7種使用した特別な一皿。カレールーの上には船の形をしたライスが盛られており、見た目にも楽しい工夫が施されている。子ども向けの「キッズビーフカレー」には、船が作れる折り紙付き。味はマイルドで食べやすく、食後も遊びが続くようなうれしい仕掛けも魅力だ。スイーツでは、しっとり濃厚な「ふねしるソフトクリーム」が定番。ドリンクは見た目も楽しい「濃い青のソーダ」、さわやかな「海レモンスカッシュ」、やさしい甘さの「いちごみるくスムージー」など、彩りも味わいもバリエーション豊富。子どもから大人まで楽しめるラインナップが魅力だ。
オリジナルグッズがそろうショップも見逃せない。学んだ知識や思い出を、家に持ち帰れるアイテムとして楽しめる。
「ふねしる」は、駅直結でアクセスもよく、天候を気にせず楽しめるから、次の休日に思い立ってふらりと訪れるのにもぴったり。すぐそばには、商船三井さんふらわあのフェリーが発着するターミナルがあり、船内見学ツアーも開催予定(2025年8月以降、日付限定で実施予定)。
フェリーの内部をじっくり見られる機会は貴重で、ミュージアムとあわせて体験すれば、より海運の世界を身近に感じられるはず。また、現在、万博会場に展示中の風と水素で走る“ウインドハンター”の模型も、万博終了後には「ふねしる」で展示される予定。最先端の技術に触れられる新たな展示として、今後の楽しみのひとつになりそうだ。
「ふねしる」で“今の海運”をたっぷり楽しんだあとは、同じく商船三井が出展している大阪・関西万博「未来の都市」パビリオンへ足を運んでみよう。
交通・モビリティゾーンでひときわ目を引くのが、風の力で進みながら水素を生み出すゼロエミッション船「ウインドハンター」。ブースのテーマは「WIND VISION」。ブースは、企業展示としてはめずらしく、風で水素を“つくる”商船三井と、それを“使う”川崎重工がタッグを組み、合同展示を行っている。水素が「つくられ」「運ばれ」「使われる」という一連の流れを、立体的に、そして感覚的に体感できる仕掛けになっている。
なかでも目を引くのが、長さ約4メートル・高さ約3メートルのウインドハンターの模型。この展示の根幹となっている、風と水素で、未来を創る「ウインドハンタープロジェクト」は、小型ヨットでの実証実験を経て、現在、中型船の開発が進行中だ。ウインドハンターは、風の力で航行しながら水中タービンを回して発電し、海水から純水をつくり出す。さらに、その純水を電気分解することで水素を生産。将来的には、生産した水素を社会に届ける“動く水素工場”としての活躍が期待されている。
また、生産した水素は、水素キャリアのひとつであるMCH(メチルシクロヘキサン)の形で船内に貯蔵される。MCHは常温・常圧で扱いやすく、既存のインフラの活用が可能な点も特徴。水素の運搬手段のひとつとして現実的な選択肢となっている。
来場者参加型の体験展示では、うちわで風を送ると、長さ約4メートル・高さ約3メートルのウインドハンター模型が帆を動かし、背面のスクリーンに水素が生まれ運ばれていく様子が映し出される。風量によってエンディングが変わる仕掛けもあり、まるでゲームのような感覚で楽しめる。使用したうちわは記念品として持ち帰ることができるのもうれしいポイント。
今しか見られない展示や、ゲーム感覚で楽しめる体験、そして未来の社会に向けたヒントが詰まった空間。子どもも大人も、いつもとは少し違う視点で世界を見つめるチャンスになりそうだ。「ふねしる」で今を学び、万博で未来を感じる。そんな1日を、大阪で楽しんでみてはどう?
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取材・文・撮影 = 北村康行
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