東京都
麻布台ヒルズにある『森ビル デジタルアート ミュージアム:エプソン チームラボボーダレス(以下、チームラボボーダレス)』は、デジタルテクノロジーを駆使したアート作品を手がける「チームラボ」による常設のミュージアム。SNSなどで作品を見かけたことがある人も多いのではないだろうか。しかし、画面越しに見る作品は、このミュージアムが持つ魅力の入り口にすぎない。ミュージアム内には、空間いっぱいにアートが広がる不思議な世界が待っている。今回は、そんな『チームラボボーダレス』の魅力的な世界を体験した様子をレポート!
『チームラボボーダレス』は、「境界のない」アート群による「地図のないミュージアム」。境界なく連続する世界に、自らの身体ごと入り込み、「さまよい、探索し、発見」しながら楽しむことができる。世界中から多くの人が訪れ、米TIME誌の「世界で最も素晴らしい場所 2024年度版」にも選出された注目度の高いスポットでもある。
東京メトロ日比谷線「神谷町駅」と東京メトロ南北線「六本木一丁目駅」直結(※)とアクセスも良好。ここからは、ミュージアムを代表する注目の作品をいくつか紹介!
※「神谷町駅」直結 5番出口 徒歩2分、「六本木一丁目駅」直結 4番出口 徒歩6分
《人間はカメラのように世界を見ていない》
入り口で迎えてくれるのは、《人間はカメラのように世界を見ていない》という作品。
指定された位置に立ってカメラ越しにのぞくと、不思議なことに「teamLab Borderless」の文字が浮かび上がる。しかし、肉眼で同じ場所を見てみると、文字は浮かび上がって見えない。この作品の秘密は、作品名のとおり「人間の目とカメラのレンズの見え方の違い」にある。
人間の目は本来、自由に広い景色を見渡し、常に動き回っている。一方、カメラなどのレンズを通すと、自分の身体がある世界とレンズで切り取った世界は分断され、視点も固定されてしまう。レンズと肉眼では、見え方がガラリと変わる作品で、入り口から人間の「見る」という仕組みを意識させられ、これからの展示への期待が膨らむ。
《Bubble Universe: 光の球体結晶、ぷるんぷるんの光、環境が生む光 - ワンストローク》
無数の光が空間いっぱいに広がるこの作品は、一歩足を踏み入れると、その幻想的な美しさに目を奪われる。
たくさんつるされている球体の中に、キラキラ輝く「光のシャボン玉」や「ぷるんぷるんのゼリーの塊」のような光、そして周辺の環境により生み出された無数の光が。光の球体の表面にはガラスなどの物質はなにもなく、光の球体は光だけでできている。人間の認識の仕組みを利用したアートで、自分の感覚が少し不思議に思える空間だ。
また、人が球体に近づいたときの「光の伝わり方」もおもしろいポイント。球体の前に立ち止まると、近くの球体が強く輝き、音が響く。そしてその光は、まるでバトンを渡すように、一番近くの球体へと次々に伝わっていく。球体はランダムに置かれているように見えるが、実はどの球体から始めても一筆書きになるように緻密な計算のもとに配置されているという。自分が生み出した光が空間をめぐり、ほかの人が生み出した光と混ざり合う。空間全体が静かに呼吸しているかのような、連続する光の美しさが印象的だった。
《The Way of the Sea: 虚空の宇宙》
《The Way of the Sea: 虚空の宇宙》も、不思議な一体感が味わえる作品だ。
この作品では、床と壁の“境界”がふっと消え、暗闇の中に立っているような感覚に包まれる。そこへ、別の部屋から境界を越えて、光の魚たちが泳いでくる。その数は十数万匹。魚たちが大きな群れとして動き回る様子が美しく、つい目で追ってしまう。魚たちが泳いだ跡には光の軌跡が残り、暗闇の中にきれいな線が描かれていく。
光に包まれて魚たちの動きを眺めていると、どこからが自分なのかわからなくなるような、不思議な浮遊感を覚える。まるで宇宙空間をただよっているかのような、新鮮な感覚を楽しめた。
《人々のための岩に憑依する滝》
水のはたらきを視覚的に体感できる《人々のための岩に憑依する滝》も印象的。
作品空間の中央には「人々のための岩」があり、岩に向かって上から滝が降り注いでいる。降り注ぐ滝は、録画された映像の再生ではなく、リアルタイムに水の流れをシミュレーションして描き出しているそう。
そのため、この滝の流れは、そこにいる人の存在や動きによって刻一刻と変化する。岩に近づいたり、岩の上に立ったりすると、流れる水はこちらを避けるようにして形を変えていく。その瞬間に見ている景色は二度と見られない“一期一会のアート”だ。
壁から床へとつながる水の流れの中に立っていると、まるで自然の滝の中にいるような心地よさを感じる。水の流れを、時間を忘れてじっと眺めてしまった。
『チームラボボーダレス』の名前の通り、ここではアート作品が部屋の境界を越えて移動し、ほかの作品と影響し合っている。
そんな「境界のない」関係性を実感しやすいのが、《境界のない群蝶》という作品だ。空間に入ると、人々の身体から色鮮やかな蝶たちが生まれる。そっと壁際に近づくと、フワッと生まれる群蝶が幻想的で、蝶の群れに囲まれているような不思議な視覚体験ができる。
この空間で生まれた蝶たちは、境界を越えてミュージアムのほかの作品へと飛んでいく。ほかの空間に入り、新たな作品として連続していく蝶は、作品間の境界をなくしていく。
地図のないこのミュージアムには、決まった順路もない。自由に歩き回り、探索しながら、自分なりの楽しみ方を見つけることができる。自分が動くことで少しずつ変化する世界を、心地よく楽しめた。
今回は、再オープンした「Light Sculpture - Flow」の作品空間《Asymmetric Universe》も体験。
「Light Sculpture - Flow」は、流れ続ける無数の光線たちが、光の彫刻を作り出す。大量の光の線が複雑に交差したり、いっせいにうねるように動いたりすることで、実体のないただの光が、まるで手で触れられそうなほど重みのある「塊」に見えてくるのだ。次々とダイナミックに形を変えながら光の塊が目の前に迫ってくる様子は、まるでSF映画の世界に迷い込んだような圧倒的な迫力がある。
さらに現在、再オープンを記念した特別展「宇宙の非対称性について」が、2026年10月8日(木)までの期間限定で開催中。本展では、新たな2つのシリーズ「Asymmetric Existence / 非対称性存在」と「Chromatic Existence / 色彩性存在」の作品群が展示されている。
「Asymmetric Existence(非対称な存在)」シリーズの作品は、鏡を使ったアートだ。鏡は目の前のものをそのまま左右対称(シンメトリー)に映すのが普通だが、ここでは「実空間に現れる光」と「鏡の中だけに現れ、実空間には現れない光」が非対称、かつ一体となっている。頭の中でひとつの立体的な彫刻が完成するような不思議な感覚を覚える。
もうひとつの「Chromatic Existence(色彩性存在)」シリーズの作品は、空間の中に流れる色そのものが彫刻を作り出す。色鮮やかな光の動きが作り出す立体感に包み込まれ、身体ごと飲み込まれそうになる没入感が、とても印象的だった。
地下鉄駅直結の麻布台ヒルズにある『チームラボボーダレス』。外に出ることなく到着できるため、夏の厳しい日差しや、突然の雨を心配する必要がない。涼しく快適な屋内型ミュージアムなので、天候を気にせずアートを楽しめる避暑スポットとしてもおすすめだ。
また、チケット価格は日や時間帯によって異なるため、混雑を避けた平日など最安値のタイミングを狙えば、この夏の時期に思いのほかリーズナブルな価格で楽しむことができる。また、『チームラボボーダレス』は来館者の約7割が海外から(※1)と、インバウンド人気の高いミュージアムなのだが、夏は外国人旅行客の来日数が比較的少ない時季(※2)なので、ゆっくりと楽しみやすい。計画的に日程を選ぶことで、より気軽に足を運びやすくなる。これも、知る人ぞ知る夏の『チームラボボーダレス』の大きな魅力と言えるだろう。
※1:チームラボボーダレス公式ウェブサイト チケット購入者データ(調査期間:2024年2月9日~2026年1月31日)
※2:2025年1月~12月の月別訪⽇外客数。出典:日本政府観光局(JNTO)
『チームラボボーダレス』で体験できるのは、訪れる人の動きに合わせてアートが姿を変え、その変化がほかの部屋へと自然に広がっていく「境界のない世界」。作品をただ眺めるのではなく、自分自身がアートの一部になって溶け込んでいくような、ここでしか味わえない一体感が待っている。日常から少し離れて、新たな感覚に出合えるアート空間へ、ぜひ足を運んでみてはいかがだろうか。
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取材・文=北村康行
撮影=阿部昌也
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